りぼんの読書ノート

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鯖猫長屋ふしぎ草紙 9(田牧大和)

かつての義賊「黒ひょっとこ」で今は画描きの青井亭拾楽が、不思議な力を持つオス三毛猫サバと長屋で暮らす、ちょっと不思議なお江戸ミステリの第9弾。この数巻は1冊だけで完結する物語が続いていたのですが、本書で登場する不気味ながら魅力的な人物は、シリーズの今後をリードしていくように思えます。

 

鯖猫長屋のほど近くに診療所を開いた蘭方医の正体は、日本一の大所帯で手練れ揃いといわれる盗賊団の首領、鯰の甚右衛門でした。痛恨のミスで腹心を失っていた甚右衛門は、次の相棒候補として拾楽に目をつけたのです。もっとも彼は手荒な真似をすることはありません。彼が欲しいのは心はが通じ合える仲間であり、堅気に戻ったかに見える拾楽の心が闇落ちするのを待っているようです。

 

そんな折、同心の家の跡継ぎという立場を放棄して歌舞伎役者の卵になっていた男が、長屋に転がり込んできます。役者間のトラブルに巻き込まれて一時的に身を潜める必要があるとのことですが、長屋には彼とともに座敷童までもが登場。どうやら彼には込み入った事情があるようなのですが、彼が戻りたいのは実家なのか、一座なのか。こんな時に頼りになるサバと妹分のサクラは、屋根の上に上ったきりで降りてきません。まさかサバの手に余る事態というわけではないのでしょうが・・。

 

第2巻から8巻までは年2冊のペースで発行されてきた本シリーズですが、2020年12月の本書以来、1年数カ月も間が空いています。この後の展開を熟慮しているのでしょうか。常に冷静沈着な甚右衛門が過去に犯したミスというのも気になります。かつて拾楽が弟分を失った事件と関りがあるような気もするのですが・・。

 

2022/6