りぼんの読書ノート

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興亡の世界史0.人類文明の黎明と暮れ方(青柳正規)

久しぶりに世界史を体系的に読み返してみようと思い、図書館の目立つところに全巻揃っていたこのシリーズを手に取ってみました。前回に読んだのは2007年で、創元社から出版されたJ・M・ロバーツ編『世界の歴史全10巻』だったから、15年ぶりのこと。

 

このシリーズの特徴は、「時代ごと、国ごとではなく、もっと広い視野でとらえ直してみる」ことで「世界史のダイナミズム」を読み取ることにあるようです。美術史を専門とする青柳正規氏は、この方針に基づく編集委員として適任の方であるように思われます。著者はシリーズの基調を定める本書で、「物語性や文明の優劣比較とは距離をおき、それぞれの文明のあるがままの姿に迫る」との方針を示されています。物語性は記憶に残り、文明比較は興味を惹きたてるのに役立つのですが、筆者の主観が入ってしまいますからね。

 

たとえば歴史で学んだ「四大文明」なる概念は、アジアにも高度な文明があったことを強調するために生み出された日本特有の用語だそうです。一方で古代アジアを4大河流域の4つの文明地域に分けるとの発想は、海洋に進出しなかったアジアの閉鎖性と停滞性を強調するためにヨーロッパで形成されたとのこと。この用語ひとつをとっても、特定の歴史観が透けて見えるわけです。

 

本書は、「第1章 ヒトから人類へ」と「第2章 農耕というイノベーション」で先史時代を概括した後に、「第3章 文明の誕生」でメソポタミアとエジプトを、「第4章 多様な文明の興昌」でインダス、中国、アメリカ大陸を、「第5章 古代地中海文明」でギリシャ、ローマを解説し、最後に「文明が滅びるとき」と結んでいます。各章について詳細を記述するわけにはいかないので、終章のエッセンスのみをメモしておきましょう。

 

・文明は必ず滅びる。永久に発展を続ける文明はない。文明衰亡の要因は繁栄を招いた要因の中に見出すことができる。

・現代科学の進歩は事物の根源を追究する要素還元主義によってもたらされたが、その反対軸にある統合主義、すなわち要素技術の成果を統合して全体の調和を把握することは求められている。

・環境問題はその一例であるが、歴史学においても個々の文明の興亡をトータルに把握して全体像を考察していくことが求められている。従って「最古、最初、最大」などの冠は、文明史においては何の価値も有していない。

 

このような視点を念頭に置いて、この先の20巻を読み進めていこうと思います。1年くらいかかるかな。

 

2022/6