りぼんの読書ノート

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正欲(朝井リョウ)

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「多様性を尊重する時代」といっても、LGBTQなどの「自分が想像できる多様性だけ礼賛する」というのは中途半端なものなのかもしれません。もちろん児童ポルノや暴力行為など、犯罪の範疇に含まれる性癖は許されるものではありませんが、無害であっても他人から理解されない性癖を抱えている人々にとっては、世界は生きにくいものなのでしょう。そしてそのような人々の存在自体が、「多様性の尊重」を辞任する人々にとって、許しがたいことなのかもしれません。

 

本書で描かれる性癖は「迸る水流に刺激を受ける」というものですが、やはり常人の理解を越えています。もっとも本書においては「常人の感覚」こそが問われているのであり、性癖の内容は何であってもよかったのでしょう。そのような性癖を抱えた人々にとっては、社会からほっといてもらえることを望むのでしょうが、社会というものは詮索と判断が大好きなものなのでしょう。マスコミやネットに流れる情報は、覗き見趣味で溢れているのです。

 

不登校小学生の息子を抱える検事の寺井啓喜、ショッピングモールの契約社員の桐生夏月、大学の学園祭実行委員の神戸八重子の3人の視点で動いていく物語には、一見すると何の接点もありません。しかし彼らの関係は、ある秘密を巡って静かに絡み合っていきます。やはりマイノリティの性癖を持つ2人の女性は、検事の息子が始めた素人Youtube動画に頻繁にコメントを寄せるようになった男たちと関わっていくことになるのです。しかしこれは犯罪なのでしょうか。想像力の斜め上をいく物語は、「正常な」人々が抱く嫌悪感を弾劾しているようです。

 

2022/3