りぼんの読書ノート

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フーガはユーガ(伊坂幸太郎)

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「不思議な特殊能力を持つ双子が悪人に挑む物語」ですから、いかにも著者らしい作品です。双子の兄・優我と弟・風我の秘密は、2人が瞬間的に入れ替われることでした。しかしそれが可能なのは年に1回の誕生日だけであり、およそ2時間ごとに起こる入れ替わりのタイミングは制御できません。

 

物語は、兄の優我がファミレスで、テレビ番組制作会社のディレクターに対して、双子の秘密について語る形で綴られます。もっともこんな能力が役に立ったのは、今までにたった1回だけ。虐待を受けていた少女を救い出す際に、まるで特撮ヒーローの変身のように入れ替わって、相手を混乱させた時のことでした。父親から酷いDVを受けながら育った双子は、少女を放置できなかったのです。しかし優我はなぜ、この男に秘密を明かしているのでしょう。救出した少女と同棲を始めたという風我は、どうなっているのでしょう。

 

陽気なギャングが地球を回す』の主人公に、「序盤で登場したピストルはクライマックスで出番がある」という犯罪映画の原則を語らせた著者は、本書においても見事に伏線を回収してくれています。ボウリングの球、赤いシロクマのぬいぐるみ、ワタボコリ・・。ちょっと不思議で、かなり切なくて、それでも読後感が爽快な「王道の伊坂ワールド」を楽しめる作品でした。

 

2022/3