りぼんの読書ノート

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ピアリス(萩尾望都)

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ポーの一族』や『11人いる!』などの文学的な作風で知られる少女漫画家が、90年代に執筆した幻のSF小説・・というので期待したのですが、残念なことに未完でした。しかも続編を書く予定もないというのですから、欲求不満が溜まってしまいます。

内戦が続く惑星アムルーから難民として脱出した双子の兄妹の物語が交互に描かれる中で、2人が不思議な能力を持っていることが次第に明らかになってきます。修道院のような施設に収容された兄ユーロは、未来視の能力を持っているせいで、時間の観点が曖昧な様です。一方でディストピアの底辺で暮らす妹ピアリスは、過去視の能力を持っているものの襲い来る禍を知ることはできません。

やがて兄妹は、故郷では幼い預言者として信仰の中心にいたことが判明したところで突然の中断。2人の再会も迫っているようですし、過去にも未来にも「世界の崩壊のイメージ」が溢れているのですが、ここまででは今後の展開は予測できませんね。ある登場人物の「ひとびとは、郷土の神は愛しても、他国の神は殺して葬るもの」との言葉も、重みを持ってくるのでしょう。息苦しい序章ですが、著者の美しいイラストが救いです。

それにしても、物語が動き出してもいないうちに未完で終了とは、むごすぎます。伊藤計劃氏の屍者の帝国を書き継いだ円城塔さんや、異才の少女を主人公とするSFで独自の世界を切り開いた冲方丁さんあたりに、続編を書いて欲しいものです。

2018/5