りぼんの読書ノート

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レモンケーキの独特なさびしさ(エイミー・ベンダー)

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9歳の誕生日に母が焼いてくれたレモンケーキを食べたローズは、母の内面にあった虚無感を味わってしまいました。それ以来、何を食べても作り手の気持ちがわかってしまうようになったローズにとって、食事は苦痛になってしまいます。人々が普段は隠している感情は、多くの場合ネガティブであるか、無機質であるかのどちらかだったのです。

生きることのヒリヒリするような感覚を描いた短編集燃えるスカートの少女や、木をノックすることに安心感を求めた女性の痛々しさを描いた私自身の見えない徴の著者は、本書ではストレートに家族関係に踏み込んでいきます。

豊かな暮らしを手に入れた父、優しくて申し分のない母、妹を愛してくれる天才的な兄。幸福を絵に描いたような家族に囲まれながら、ローズは、父の無関心、母の孤独、兄の失踪願望を感じてしまいます。やがて兄ジョゼフが意外な形で失踪を遂げた時、ローズは自分の能力がどこから受け継がれたものかを知ることになるのですが・・。

本書は、家族の結びつきに疑問を感じたローズが、自分の巣立ちをきっかけにして、再びそれを信じるようになる物語なのです。逆説めきますが家族間の愛情の本質とは、互いに不信感や不満足を抱きながらも家族であるための努力を払い続けることなのかもしれません。積み重ねられた営みに支えられた関係は、決して虚構ではないのでしょう。

2017/4