りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

トライアル(真保裕一)

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公営ギャンブルレースの場を舞台にして、一瞬の勝負に挑むプロフェッショナルたちの世界を描いた連作短編集です。とはいえ本書のテーマは、決して華々しい勝負の場ではありません。背景には勝負の世界がありながら、家族や同僚との人間関係に悩むレーサーたちの姿が描かれるのです。

「逆風」
売出し中の競輪選手の直人を突然訪ねてきたのは、自分勝手に生きて連絡を絶っていた兄でした。しかも、その目的は金策よりも、もっと卑劣なことだったのです。しかし、ためらいを断ち切って逆風をついて失踪した直人は、弟のことを気遣っていた兄の真意に気づくのです。

「午後の引き波」
夫婦で競艇選手をしている英子は、かつては憧れの存在であったものの、大怪我を負ってから調子があがらない夫のランクを超えてしまいました。ある日、夫のカバンの中から見たことのない金属板を見つけ、もしや不正に走ろうとしているのではないかと訝しむのですが・・。二転三転する「真相」が巧みです。

「最終確定」
入院中の父親が危篤だという偽電話でオートレースをドタキャンした明博は、誰が嫌がらせを仕掛けているのか考え込んでしまいます。彼は決して、注目を浴びるような選手ではないのですから。しかし、明博の内部事情を知っていた犯人は、意外な人物だったのです。

「流れ星の夢」
新人騎手の高志は、馬の故障を次々と癒し続ける中年の新米厩務員の過去に疑問を抱きます。競馬界から追放された人物が偽名で勤めているのではないかと記録を調査するものの、真相は不明なまま。しかし、彼が去る前に調教した気性の荒い馬について語った言葉は、間違いなく高志を成長させたようです。「気性が荒いのは臆病なせいだが、臆病ってのは悪いだけじゃない。」

2016/3