りぼんの読書ノート

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あの家に暮らす四人の女(三浦しをん)

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杉並区の古びた洋館に住む「四人の女」とは、60代の母親・牧田鶴代と30代の娘・佐知、それと縁あって共同生活を営むようになった30代の雪乃と20代の多恵美。登場人物の名前からして、谷崎純一郎『細雪』の蒔岡家四姉妹「鶴子、幸子、雪子 、妙子」を思い起こさせます。

昭和初期の没落しつつある大阪船場の旧家を舞台にして、雪子の結婚問題と妙子の恋愛関係を軸に展開される『細雪』と異なり、本書では若い多恵美は別として、適齢期を過ぎようとしている佐知と雪乃にはほとんど男性関係はないのです。最期にはちょっとした恋の予感もあるものの、著者の投影であろう30代の女性2人がすんなり結婚するとも思えません。

雪乃の水難、開かずの部屋のミイラ、多恵美につきまとうストーカー、屋敷への闖入者などの事件は起こりますが、女4人の日常は、にぎやかながら概ね平穏。本書の語り手は、単純な三人称だけでなく、杉並区の善福寺川近辺に棲み続けるカラスや、全く意表を衝く存在。彼女たちを見守るのは、敷地内の守衛小屋に住みついている山田老人と、やはり全く意表を衝く存在。

著者は「三人称の語り手問題」も追及してみたとのこと。意表を衝く存在を登場させて、日常と隣り合わせにある非日常を読者に意識させるという著者の回答は、意外としっくりくるのです。個人的には、本書を「佐知と雪乃のダブルヒロイン物語」と理解しています。

2017/4