りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

婿どの相逢席(西條奈加)

小さな楊枝屋の四男坊から、大店の仕出屋「逢見屋」に婿入りした鈴乃助。妻の千瀬とは相思相愛の間柄であり、誰もが羨む逆玉婚のはずだったのですが、逢見屋には大きな秘密がありました。それは入り婿はいっさい仕事に手を出してはいけないということ。それは2代目と3代目の主人が潰しかけた家業を女将が盛り返してからずっと伝わる鉄の掟であり、婿の役目は女児の父親となることでしかなかったのです。鈴之助が婿に選ばれた理由も、義祖母の大女将・喜根と義母の女将・寿佐から、気が弱い好人物と見込まれたからというのですから、何をか言わんや。

 

若い身空で隠居同然の暮らしを余儀なくされてしまった鈴之助でしたが、彼には秘めた矜持と揺るぎない家族愛がありました。愛妻の若女将・千瀬を助けて、得意先の相続問題を円満解決に導いたり、義祖母や義妹たちの信頼を得たりするのですが、実は逢見屋にはもうひとつの隠された秘密があったのです。なぜか執拗に逢見屋を敵視する同業者の存在は、その秘密と関係があるのでしょうか。鈴之助はその秘密を解き明かして、愛妻と店を守ることができるのでしょうか。

 

正統派の大江戸人情物語ですが、著者のデビュー作は、2005年に日本ファンタジーノベル大賞を受賞した『金春屋ゴメス』です。現代社会に江戸を現出させるという奇抜なアイデアの作品でしたが、いつの間にか正統派の時代小説作家になってしまいました。しかも2020年には『心淋し川』で直木賞も受賞しているのですから、方向転換は正解だったのでしょう。私としては「雨月物語」を題材にとった『雨上がり月霞む夜』のような、少し妖しい作品のほうが好みなのですが。

 

2022/7