りぼんの読書ノート

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三人姉妹(大島真寿美)

後に、中世ベネツィアの孤児院附属音楽院を舞台とする『ピエタ』や、江戸時代の人形浄瑠璃をテーマとする直木賞受賞作『渦 妹背山婦女庭訓魂結び』を著わすことになる著者の、初期作品です。本書に先行する『チョコリエッタ』の延長線上にある作品といえるでしょう。

 

主人公は三人姉妹の末っ子である水絵。大学を出たものの実家暮らしでミニシアターでバイトをしているフリーター。学生時代に在籍していた映画研究会に出入りし続けていて、後輩の右京君と交際中。もっとも2人の関係はあまりにまどろっこしくて、右京君の真意をいまひとつ理解できていません。水絵には年の離れた姉が2人いて、常に末っ子の悲哀を感じ続けています。玉の輿婚をした長女・亜矢も、毒舌家キャリアウーマンの次女・真矢も、ついでに元お嬢様の母親も皆マイペースで、水絵は家族にも振り回されているばかり。

 

文庫版解説の橋本治氏は、「一人称独白体の小説は、その性質上、主人公が自分のことを棚に上げて、周りを小バカにする小説になってしまう」と述べていますが、それだけでは単なるイヤな奴。だから主人公は「少しコケて少し反省する必要がある」そうですが、水絵がコケるのは恋愛です。その過程で語り手の魅力を引き出していくのが著者の筆力ということなのでしょう。『チョコリエッタ』のメインテーマに用いられた「映画」という題材を、本書では伴奏として扱ったことも成功しているように思えます。

 

2022/7