りぼんの読書ノート

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クイーンズ・ギャンビット(ウォルター・テヴィス)

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2020年にネットフリックスから配信されて人気を博したドラマの原作ですが、本書が書かれたのは今から40年近く前の1983年のこと。やはり著者の原作による映画「ハスラー」や「ハスラー2」は、老いた男性の再起が描かれましたが、本書の主人公は若い女性です。現代でもなお男性プレイヤーが支配的なチェスの世界に風穴を開けた天才少女の物語。時代背景が1960年代ということを考え合わせると、画期的な作品といえるでしょう。

 

8歳の時に両親を失って孤児院に入れられたベスは、用務員のおじさんに教えて貰ったチェスの腕前を上達させます。しかし規律を重んじる院長からはチェスを禁じられ、彼女の才能が本格的に花開いたのは、養女として引き取られてから。後に夫と離婚することになる養母は、チェスの大会で賞金を稼いでくるベスに期待するようになっていきます。しかし彼女の才能は、そんな閉塞した世界にはとどまりません。やがて全米大会や国際大会へと飛び出していくのです。そして19歳にして当時世界最強だったソ連グランドマスターと対戦するのですが・・。

 

本書は単なる「努力・友情・勝利」の物語ではありません。男性プレイヤーたちの敵意やセクハラはもちろんのこと、孤児院で与えられていた精神安定剤への依存や、その後のアルコール依存とも戦わなくてはならなかった少女の姿は、強い女神でも可愛いだけのヒロインでもありません。本書には、自分の弱さと格闘しながら道を切り開いていく等身大の女性が描かれています。そこにはチェスを学んでアルコール依存から回復した著者の体験が反映されてもいるのでしょう。

 

「クインーズ・ギャンビット」とはクイーン前のポーンを前進させて犠牲とする戦法のことだそうですが、複雑で予測しがたい展開になりやすいとのこと。チェスを手段として自立を求めるベスの物語にふさわしいタイトルでしょう。

 

2021/12