りぼんの読書ノート

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ジニのパズル(崔実)チェ・シル

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在日朝鮮人三世の少女にとって、彼女を取り巻く世界が不条理に満ちているであろうことは想像に難くありません。それは日本、韓国、北朝鮮という3カ国の狭間に産み落とされた存在なのですから。生徒の大半が韓国籍であることを選択した者なのに、朝鮮学校では北朝鮮の指導体制を崇める運営がなされているのです。これは朝鮮学校が誕生した際の経緯に由来するのですが、日本との関係だけでも相当微妙なのに、民族内の矛盾も抱え込んでしまうとは!

 

日本名で通した日本の小学校を卒業したジニが、中学生になって朝鮮学校に通い始めた経緯は明らかにされていません。母方の祖父が北朝鮮に向かったことと関係があるのかもしれませんが、彼も北朝鮮で悲惨な最期を迎えたようです。ともあれ朝鮮語も話せないまま朝鮮学校に放り込まれたジニが、学校内で居場所など見つけられようもありません。それでも彼女は2つの言語と3つの国家の間で必死に生きようとするのですが、テポドンが発射されたことで彼女を取り巻く世界は決定的に変わってしまったのです。そして朝鮮学校の欺瞞を覆そうと、彼女はたったひとりで革命を起こそうとするのですが・・。

 

数年後、オレゴンのホームステイ先で絵本作家の老女に温かく受け入れられ、障害を持つ学友たちと交流をはじめながらも、彼女の心は空虚なままです。しかし「空が落ちてくる時には、空を受け入れましょう」と話す絵本作家の言葉を聞いて5年ぶりの涙を流したジニは、この矛盾した世界を受け入れることができるのかもしれません。いや、世界を許容できない自分のことですら、世界は受け入れてくれると感じたというほうが正しい表現かもしれませんね。在日朝鮮人社会の中で朝鮮学校をめぐって択一的な選択を迫る風潮が、本書に対する非難を巻き起こしたなどというニュースを聞くと、ジニの心は一層乱されるのではないかと心配してしまうのですが。

 

2021/12