りぼんの読書ノート

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ブランコ乗りのサン=テグジュペリ(紅玉いづき)

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首都湾岸地域に誘致された大規模なカジノ特区に作られた、古き男性文学者の名を戴いた少女たちが集まるサーカス団。団長のシェークスピア、歌姫のアンデルセン、猛獣使いのカフカ、パントマイムのチャペック、そして空中ブランコのサン=テクジュぺリ。

花形である演目を任されて名前を襲名できるのは、曲芸学校をトップで卒業したエリートのみ。多くの少女たちの憧れと挫折の果てに、選ばれた人間だけで舞台へと躍り出る、少女サーカス。そのモットーは「不完全であれ。未熟であれ。不自由であれ」・・だから少女だけのサーカス。

しかし、天才的才能とカリスマ性を持つ当代の花形スター、8代目サン=テクジュぺリは、緊張のあまりブランコから落下。それもそのはず、その日の舞台に立っていたのは、誰にも内緒で怪我をした姉の代理を務める双子の妹だったのです。ここだけ見ると、まるで『タッチ』の上杉兄弟。

物語のベースは、2人でともにサーカスを目指しながら、強い意志と執念でスターに上り詰めた姉と、才能はあったものの途中で身を引いた妹の葛藤です。演技者として開花していく妹と、二度と右足が元に戻らないと宣告される姉。そして最後に2人の取った行動とは・・。「不完全であれ」の意味が凄みを持つ瞬間。

しかし、それだけではありません。アンデルセンカフカやチャペックら、少女たちがそれぞれに持つ物語が、否が応でも熱量をアップさせていくのです。そしてサン=テクジュペリに仕掛けられた罠に対して、少女たちは自分たちの雄一の居場所であるサーカスを守るため、文字通り命をかけた闘いを始めるのでした。

デビュー当時の桜庭一樹さんと雰囲気がカブる感じはするものの、楽しい小説でした。スポットライトを浴び、賞賛や絶叫を聞き、拍手を受ける一瞬のためだけに、あらゆるものを投げ捨てて少女でいられる間だけ「見世物」として舞台に上がる究極のアイドル像が、本書には描かれているのです。

2013/9