りぼんの読書ノート

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銀河鉄道の彼方に(高橋源一郎)

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宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をモチーフとして、「その先にあるもの」を追求した作品です。ジョバンニが旅した銀河鉄道とはいったい何だったのか、本書に示された著者の答えは、現代に文学がなおも存在しうる理由を問い続けてきた作家にふさわしいものだったように思えます。

本書には特段のストーリーラインはありません。超光速有人宇宙飛行が可能となった未来において宇宙船から失踪した「G**」の父親が向かった先はどこなのか。最も孤独な宇宙飛行士はどうなってしまうのか。最期に遺された秘密「あまのがわのまっくろなあな」とは何なのか。「G**」や「C**」とともに疑問を抱いた読者も、次章では「並行宇宙」に飛ばされてしまいます。

「G**」はジョバンニとなり、「わたし」となり、「あなた」となり、同一性は揺らぎ続けます。「悪」と戦うのランちゃんやキイちゃんが登場し、火炎瓶を投擲して逮捕される青年ケンジの生涯が描かれ、「流動」によって不定形化する世界、復活する「死人」たちなど、次から次に登場する著者の作品のモチーフは、何を意味するのでしょうか。

どうやら「銀河」とは「想像力の無限の広がり」であり、「銀河鉄道」とは、想像力が無限に広げた結果生れた異なる世界を結ぶ手段のようです。より具体的には、それぞれの「本や手記」が切り開いた世界を結びつける「巨大な書物」こそが「銀河鉄道」のようなのです。3.11以降の著者がたどりついた極地が、ここに示されています。

2013/9