りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

終わりの感覚(ジュリアン・バーンズ)

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穏やかな引退生活を送るアレックスのもとに見知らぬ弁護士から、学生時代の恋人ベロニカの母親からの遺贈品があるとの連絡が入ります。それは、彼の高校時代の親友でケンブリッジ在学中に自殺したエイドリアンの日記でした。ベロニカは主人公と別れた後エイドリアンの恋人になっていたのですが、なぜ彼の日記が彼女の母親のところにあったのでしょう。

アレックスはベロニカとは穏やかに別れ、エイドリアンとは自然と縁遠くなったと記憶していました。しかしあらためて当時のことを思い返すと、付き合い始めた2人に対して辛らつで下品な手紙を送っていたのですが、それだって「若気の至り」の範囲のはず。しかし送った側は忘れてしまえるようなことでも、送られた側にはトラウマとなってしまうこともあるのです。エイドリアンの日記を渡そうとしないベロニカと数十年ぶりに再会したアレックスは、当時何が起きたのか知ることになるのですが・・。

若き日の主人公たちが小生意気に語っていた「歴史とは不完全な記憶が文書の不備と出会うところに生まれる確信」などという言葉が効いています。「記憶の揺らぎ」をテーマとした作品なのですが、それよりも「運命の残酷さ」と「理不尽な運命に対する消えない恨み」が強烈な印象を残してしまったようです。

2013/9