りぼんの読書ノート

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シスターズ・ブラザーズ(パトリック・デウィット)

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ゴールドラッシュに沸く19世紀半ばのカリフォルニア。悪名轟く凄腕の殺し屋2人組が、雇い主の「提督」に命じられるまま、ある山師を消しにサン・フランシスコへと向かいます。

変なタイトルですが、粗野で狡賢い冷血漢の兄・チャーリーと、普段は心優しいもののキレると手がつけられない弟・イーライの名字が「シスターズ」なんですね。確かに残忍な殺し屋兄弟なのですが、この2人の旅はなんとなくほのぼのと聞こえます。それは物語の語り手が「普段のイーライ」だからなのでしょう。ダメ馬を可愛がり、女性に惚れやすく騙されやすい男が、ずっと愚痴を言い続けるのですから。

ようやくたどり着いたサン・フランシスコで山師ウォームの目的が「砂金の発見法」と知ったとき、「提督」を裏切ってウォームと組もうとした2人でしたが、そう簡単にはいきません。手品の種のみならず、怒った娼婦たちに袋叩きにされて全てを失ってしまうことになります。

この展開だけでも興味深いのですが、本書の醍醐味があるのはズルズルと語られるデティルのほうですね。飲酒と二日酔い、蜘蛛の毒の治療、歯医者からもらった歯ブラシ、馬の目のくりぬき方、砂金採掘者たちの実態・・騙し騙されながらの西部の旅は危険がいっぱいであり、悲劇的な出来事も多く起こるのですが、それらを全て翻訳者の言うところの「激しい暴力をぼけっと包むアナーキーな笑い」にしてしまう、不思議な魅力に溢れる作品でした。

2013/9