りぼんの読書ノート

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日輪の賦(澤田瞳子)

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701年に制定された大宝律令によって、この国の形は決定されました。刑法に相当する「律」と民法行政法に相当する「令」のみならず、日本という国号、天皇という元首、中央・地方の官制や税制が定められたのです。

本書は、白村江の敗戦によって増大した新羅の脅威と壬申の乱による政情不安という内憂外患によって、国家存亡の危機を感じていた女王・讃良(さらら・持統天皇)による律令編纂の物語です。しかし律令制定による中央集権の強化に反対する豪族も多く、草壁皇子亡き後の皇太子であった高市皇子薨去によって激化した後継者争いとも絡んで、讃良は「生みの苦しみ」を味わいます。

讃良を中心とする「大きな物語」は、孫にあたる若年の軽皇子(文武天皇)への譲位や、不遇をかこっていた藤原不比等の登用など、律令編纂に向けての局面打開策。一方で官僚を目指す地方豪族の若者を主人公に据えて、若手官僚、学者、民衆たちの視点を交えたところが「物語の面白さ」を支えます。

亡き兄の恋人だった男装の女官や、有名人ではあったものの官位は低かった柿本人麻呂の役割もいいですね。兄の死を真相を知った主人公が刑罰を律令に委ねて復讐を断念する場面や、「律令制定はそれだけで終わるものではなく、ひとりひとりの国民が律令精神を身につけることが必要」と理解する現代的な視点も効いています。

ところで大宝律令では「文書主義」が導入されました。文書の書式を定めたり、印鑑の押印や元号に基づく日付記入が義務付けられたりもしています。日本の「お役所仕事」は1300年の間、変わっていないんですね。

2013/9