りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

19分間(ジョディ・ピコー)

イメージ 1

幼稚園から高校までずっとイジメの標的になってきた少年が、耐え切れなくなってキレたら何が起こるでしょうか。銃社会アメリカでは、銃乱射事件すら起こりえるのです。マイケル・ムーア監督「ボーリング・フォー・コロンバイン」を下敷きにした物語ですが、コロンバインの事件と違うのは、犯人の少年が射殺されずに逮捕され裁判にかけられること。

裁判の過程で明らかになっていくのは、イジメの実態だけではありません。凶行に及んだ息子ピーターを「子育ての途中で見失った」両親のレイシーとルイスをはじめ、事件に関わった人たちの思いも丁寧に描かれます。

とりわけ、ピーターと幼馴染みの友人でありながら、高校に入ってスポーツマンでハンサムなマットのガールフレンドとなってピーターを見捨てた少女ジョージーと、彼女を見守る母親で判事のアレックスの思いが中心となって、物語が進行していきます。

「19分間」とは、登場人物たちの運命を変えた、銃乱射事件が起きていた時間。ジョージーはなぜ、銃を向けられながらも射殺されなかったのか。ジョージーはなぜ、19分間の記憶を失ってしまったのか。やがて意外な真相が明らかになっていきます。

イジメを原因とする銃乱射という陰惨でショッキングな事件を、「家族の絆」という視点から正面きって取り上げたのは、わたしのなかのあなた偽りをかさねての著者らしい試みですね。重いテーマを取り扱いながら、読者に「自分ならどうするだろう?」とまで考えさせてしまうほどの作品に仕上がっています。

ただ、他の作品でも感じたのですが、主人公以外の登場人物のサイドストーリーに手間をかけすぎのようにも思います。さまざまな立場の人に対して、登場人物の誰かに感情移入してもらうための、いかにも売れっ子ライターらしい仕掛けのようにも思えてしまいましたので・・。

2010/3