りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

スパイたちの遺産(ジョン・ル・カレ)

イメージ 1

著者初期の傑作である『寒い国から帰ってきたスパイ』の背景にあった事情を、後に著されたティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイにはじまる「スマイリー3部作」を踏まえた大きな背景の中で再構成した作品です。

視点人物は、英国情報部の「隠密セクション」のチーフであったスマイリーの愛弟子で、数多くの諜報戦に深く関わってきたピーター・ギラム。引退してブルターニュの片田舎で暮らしていたギラムのもとに突然、情報部からの呼び出しがかかります。冷戦時代にベルリンの壁を越えようとして射殺された、情報部員アレック・リーマスの息子とエリザベスの娘が英国情報部を訴えようとしており、現情報部が調べようとしても当時の資料は消えているというのです。

厳しい追及を受けて、隠されていた資料を引き渡したギラムですが、彼には拭い去ることのできない後悔がありました。彼は、その作戦の前段階で東ドイツから亡命させた可憐な女性、暗号名チューリップに強く惹かれていたのですが、彼女は亡命直後に殺害されてしまったのです。そしてギラムの視点から見た事件の真相とは、何だったのか。

『寒い国から帰ってきたスパイ』は未読でしたが、読まなくてはなりませんね。「スマイリー3部作」に登場していたコントロール、ヘイドン、アレリン、エスタヘイス、ミリー、ブリドーなどの懐かしい名前もたくさん出てきます。スマイリー本人もラストに登場。

1975年に書かれた『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』が、2011年に「裏切りのサーカス」として映画化されたことに続く驚きでした。映画ではベネディクト・カンバーバッチが、若きギラムを演じていました。

2018/10