母と同じく中宮彰子のもとで宮仕えを始める、紫式部の娘・賢子は１４歳。お約束の新人イジメを軽々と跳ね除け、素敵な殿方との大恋愛に野望を抱く少女を主人公とする宮中ラノベなのですが、時代考証や登場人物の背景がしっかりしていることに加えて、母娘の和解に至る成長物語となっている作品です。
著名なキャリアウーマンの母に放置されてきたとの思いを持つ賢子は、母には複雑な感情を抱いていました。人見知りで控えめな母と正反対の負けず嫌いで勝気な性格や、早く大人になって自立したいと願う早熟さも、そのあたりに源流があるのでしょう。
賢子の同僚は、地味で人の良い先輩の小馬、元いじめっ子ながら賢子に頭が上がらなくなった中将君良子、容姿もモテ度もぶっちぎりの小式部ら。同い年の小式部は和泉式部の娘なのですが、後に明かされる小馬の母には驚かされます。賢子らが狙っている貴公子たちは、藤原道長の嫡男で超エリートの頼通や、道長の妾腹の息子ながら今光君と呼ばれる超モテ男の頼宗ら。
そんなある日、宮中で奇怪な事件が起こります。彰子の前に中宮だった故定子の妹で、やはり早逝していた原子が物の怪として現れ、それを招き入れたのは小馬だというのです。友人の汚名をすすぐために立ち上がった賢子ですが、実は事件の背景には政治的な大人の事情がありました。もちろんそんなことでビビる賢子ではありません。
むしろ彼女の真っ直ぐな行動が事件を解決に導くのですが、それを契機として紫式部が中宮彰子を支えて担ってきた役割が明かされ、娘に対する思いの深さを知ることになるという展開は見事です。後に賢子の夫となる男性とは最悪の出会い方をしてしまいましたが、次巻でどう展開していくのでしょう。ちなみに本書に登場するのは全て実在の人物であり、今光君の頼宗や、事件の際に出会った藤原定頼や源朝任は、実際に賢子と親交があったとされているようです。
2018/4
