りぼんの読書ノート

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金春屋ゴメス 因果の刀(西條奈加)

2005年に『金春屋ゴメス』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、翌年には続編の『異人村阿片奇譚』を書いた著者は、その後本格時代小説作家へと変貌し、2021年には『心淋し川』で直木賞も受賞しています。16年の時を経て書き上げたシリーズ第3弾は、どんな作品になったのでしょう。

 

もともと本書の設定は奇抜です。人類が月への移住も果たした近未来において、近世の江戸を忠実にさK現下「江戸国」が日本の中に存在しているというのですから。電気もガスも、交通機関もパソコンも、最新の医療設備すらない江戸国は、共感する人々の移住によって700万の人口を有し、日本からの独立を宣言して鎖国を敷いているのです。もっとも世界的には日本の属領の扱いなのですが。

 

本書は「第2作」で綴られた江戸国からの阿片流出事件について、日本国から査察が入る場面から始まります。大御所議員の印西を団長とする日本国の代表団に宇宙工学や次世代エネルギーの専門家が加わっていたのには理由がありました。どうやら江戸国の地下には、革命的なロケット燃料となり得る資源が眠っているようなのです。江戸国の開国と明け渡しを迫る日本に対して、けた外れの怪人である長崎奉行のゴメスは江戸を守れるのでしょうか。しかし印西は暗殺され、その犯人とされたゴメスは逮捕監禁されてしまいます。そして江戸国を亡ぼすべく仕組まれた「明暦の大火」が迫ってくるのですが・・。

 

前2巻では明らかにされていなかった、江戸国誕生秘話や、徳川将軍・御三家・御三卿の出自や、江戸国に移住する前は超エリート科学者であったというゴメスの過去も明らかにされます。その分説明的に過ぎる感もあり、デビュー作にあったハチャメチャなパワフルさは少々失われているようですが、著者は過去の作品に決着をつけたかったのでしょう。日本では中途半端に生きていた元大学生の辰二郎も、江戸国でひとり立ちできそうです。

 

2024/6