りぼんの読書ノート

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2010/9 メイスン&ディクスン(トマス・ピンチョン)

宮部みゆきさんの新作『小暮写眞館』は惚れ惚れするほど巧みな展開で、完成度も高く期待は裏切られませんでしたが、それを上回る感動を与えてくれたのが、歴史に題材をとって迫力ある読み物に仕上げた大作2つ。

コミカルな語り口の中から奴隷制への批判が滲み出てくる『メイスン&ディクスン』と、17世紀のスペイン領南アメリカでの、苛烈を極めた異端審問所の残虐さを暴き出した『マラーノの武勲』は、主題にも共通するものがありました。
1.メイスン&ディクスン(トマス・ピンチョン)
天文学者測量士のコンビが独立前のアメリカに「線」を引いていくコミカルな珍道中記。この2人が引いた「メイスン=ディクソン線」は、後に南部奴隷州と北部自由州を隔てる境界線となって南北戦争の舞台となるのですが、笑いの中から浮かび上がってくるのは、「奴隷制」に対する批判です。1000ページを超える大作の最後には清冽な感動も・・。本書を皮切りに、ピンチョンの全小説の刊行が決定! 楽しみですが読みきれるかな?

2.マラーノの武勲(マルコス・アギニス)
「マラーノ(豚)」とはキリスト教徒を装う「改宗ユダヤ人」への蔑称です。17世紀の南アメリカで、異端審問所によって火刑に処せられた実在の人物の生涯を描いた本書は、不寛容な宗教に対する痛烈な告発となっています。ユダヤ教徒としての信念に基づく異端審問官との論戦は、『カラマーゾフの兄弟』の「大審問官」を髣髴とさせる大迫力ですが、こちらのほうが200年も早く、しかも史実なのです。

3.小暮写眞館(宮部みゆき)
「高校生の心霊写真バスター登場!」・・といっても、心霊写真はそれぞれの人物が過去に決着をつけるためのきっかけにすぎず、全体を通してみると、主人公の少年が自分の家族の過去に潜んでいた問題に決着をつけて、恋心を抱いた女性との別れを経験するとの成長物語になっているんですね。完成度の高さに驚かされます。
 
【次点】
パリ左岸のピアノ工房(T.E.カーハート)


2010/9/30記