天保年間の江戸の町に咲いた悪の華、「天保六花撰」と呼ばれた悪党たちが知り合って、大胆にも大悪事に挑む、大江戸ビカレスク・ロマン。とはいえ本書の悪党たちは皆、悩みも屈託も抱えていて、歌舞伎大見得を切るような「大悪党」らしくはありません。そのあたりも、いかにも藤沢さんらしいのです。
河内山宗俊:強請たかりを生業にする御数寄屋坊主。悪名高い本人が無役のままで終わるのは当然としても、息子には役について欲しいという、人並みの親らしい悩みも持っています。
片岡直次郎:通称「直侍」。御家人くずれの河内山の弟分。花魁の三千歳に惚れてしまい、会いたい気持ちはつのるものの吉原通いをする金も続かず、河内山に頼んで身請けをもくろむのですが・・。
金子市之丞:道場を構えているものの、金がなくなると辻斬りをするぶっそうな剣客。直侍に愛想をつかした三千歳に惚れられるのですが、やはり金が続きません。江戸での手配を逃れて田舎に引っ込もうとするのですが・・。
暗闇の丑松:直侍の弟分で、元料理人の博徒。このメンバーの中では小悪党のイメージがぬぐえませんが、小回りが効いていてメンバーの仲介役的な役割を果たします。もちろん彼にも悲しい過去がありました。
三千歳(みちとせ):六花撰のメンバーは彼女を中心に回っているようなものですね。手口も駆け引きもなく、惚れた男に誠を尽くすだけの浮世離れした女が、男たちを溺れさせます。「金の切れ目が縁の切れ目」の枠を超えると問題も大きくなるのです。
さて、この6人が天下の水戸藩に強請りをかけるという大勝負に出るのですが・・。
2010/9