主人公の弥五郎は、お伊勢参りの案内役「御師」の手代見習。お伊勢参りを専門とする旅行会社の社員が、日ごろから旅行予備軍の檀家の拡大に務め、旅行積立である講の世話をし、いざ参拝ツアーに出る時にはコンダクターの役割まで担うようなお仕事ですね。
実は清兵衛は元武士で、彼の背景には、とある藩の重商主義政策がありました。商才ある藩士を商人として育成し、儲けを藩の財政に寄付させるという奇策なのですが、商売もうまくいき、吝嗇と噂されるほどの節約から溜めた利益を藩に献金しているのに、誰が何のために狙うのか。どうやら、天領の吉野杉を密売した嫌疑がかかっているとのことなのですが、清廉潔白な清兵衛には覚えのないこと。
伊勢参りにかこつけて旧藩に乗り込む清兵衛と、彼を助ける弥五郎は、陰謀を暴くことができるのでしょうか。また、弥五郎にも伊勢に戻りたくない事情があるようなのですが・・。
現代の経済原理を江戸の人情小説に持ち込むというユニークさを出しているのですが、もっと人物を描ききらないと、数多い時代小説作家の中に埋もれてしまうのではないか・・と心配になります。どうなのでしょう。
2011/8