長編『テンペスト』からのスピンオフ小説『トロイメライ』の続編です。新米筑佐事(岡っ引き)の武太を狂言回しにして綴られる那覇の人情物語には、祖先を崇め、自然とともに生きる「沖縄テイスト」がたっぷり。毎回登場する沖縄料理と、三線音楽の歌詞もいい味を出していますね。
間切倒:日照りで立ち行かなくなった村の再建を命じられた出世志向の役人は、過激な策で村を潰してしまいそうになります。たまりかねて番所に火をつけたノロを逮捕した役人に、ノロを束ねる聞得大君・真牛の怒りが大爆発!
職人の意地:菓子と菓子器のコンクールに、「をなり宿」三姉妹が琉球漆器工房と組んで挑戦。長女と次女はそれぞれ親方と筆頭弟子とペアを組んでやる気満々。見習い職人と組んだ三女には、材料も時間も与えられないのですが・・。
雨後の子守唄:「をなり宿」に豪華料理を注文した女性が金を払わず消え失せます。それもそのはず、この女性は幽霊で、養子先で虐待されている息子にごちそうを食べさせたい一心で現われたのですから。
那覇ヌ市: あくどい高利貸しが、清国から蛇皮を密輸しているとの噂ですが、評定所は手を出せません。その男は王族なのです。正義の味方・黒マンサージの出番となりますが、なぜかスーパー・ジュリ(売春婦)の魔加那も現れて・・。
琉球の風水師:清国と沖縄の気候の違いもわからない薀蓄風水師の設計図による、無理な村づくりは破滅のもと。土地の声を聞き出して的確な指示をする風水師が村を救いますが、その男は資格を持たない偽風水師のとの訴えが出されます。
前巻に引き続いて登場した怪盗・黒マンサージの正体は、まだ謎に包まれています。『テンペスト』の主人公で超エリートの孫寧温と知り合いで、互いに相手の正体を知っているようなのですが・・。
このシリーズは、まだ続きそうです。池上さんには、もっと本格的な長編を期待したいのですけどね。
2011/8