りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008/10 見知らぬ場所(ジュンパ・ラヒリ)

10月は「読書の秋」にふさわしく、『新世界より』、『テンペスト』、『警官の血』、『ベイジン』と、日本人作家による素晴らしい長編小説をたっぷり堪能することができました。ル・グウィンさんの新シリーズも期待に違わない素晴らしい作品でしたし、『ハリー・ポッター』の完結編も楽しめました。

そんな高水準の中での1位はラヒリさんの『見知らぬ場所』。短編集ですが、どの作品も心に真っ直ぐに迫ってくるのです。やはり名手です。

1.見知らぬ場所 (ジュンパ・ラヒリ)
異郷に暮らすベンガル人移民の微妙な違和感や哀しみを持ち味としていたラヒリさんですが、この本では、家族の繋がりや男女の愛憎の機微を、より普遍的なものとして描いてくれます。「どこも似たように恐ろしい」の一言で、かつて自分も経験したことのある家族や恋人への違和感や喪失感すらも引き出されてしまいました。

2.新世界より (貴志祐介)
1000年後の日本では、わずか6万人の人間が、何箇所かの村に別れて棲んでいるだけ。常温核融合や遺伝子変換までも可能とする、凄まじい念動力を使えるようになった新人類が支配する世界の実態はどうなっていて、「普通の」人間はどこでどうしているのか。「座標軸がズレる感覚」にぶっ飛んでみたい人には、めちゃくちゃお奨めの一冊です。

3.テンペスト (池上永一)
19世紀後半、薩摩藩清朝の両方に臣属して生き延びてきた琉球王国にペリーが来航。王国の危機を救うため、少女真鶴は宦官になりすまし、女人禁制の行政官となって大活躍・・のはずが、運命のいたずらで、なんと国王の側室にも選ばれてしまいます。破天荒のおもしろさと、著者の沖縄への愛情がたっぷり詰まった作品に仕上がりました。

4.西のはての年代記Ⅰ.ギフト Ⅱ.ヴォイス Ⅲ.パワー (ル=グィン)
人はなぜ人を支配するのか。他者を支配するための「能力」とは何なのか。人間は、持てる「能力」をどう用いればよいのか。ファンタジーの中の「不思議な能力」でも、現実世界の「能力」でも同じこと。名作『ゲド戦記シリーズ』の著者がたどりついた世界観に浸ってください。

5.警官の血 (佐々木譲 )
祖父が活躍した戦後の混乱時代と、父が活躍した連合赤軍時代から、現代へ。3代続いた警察官の血筋がたどり着いた、「正義とは何か」との問いへの答え。それぞれの時代の「世相と人間」がしっかり描かれた、力作です。




2008/11/1