りぼんの読書ノート

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運命の日(デニス・ルヘイン)

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アメリカを超大国にのし上げた「黄金の1920年代」。でもその前夜には、激動の嵐が吹き荒れた2年間があったのですね。本書は、第一次世界大戦末期の1918年にはじまります。第一次世界大戦終結を間近に控えて、続々帰国してくる戦争帰還兵がもたらしたものは、スペイン風邪と、大量失業と、ロシア革命の影響を受けた共産主義テロリズムの蔓延。激動の嵐はやがて、市警のストライキを発端としてボストン大暴動が起きた「運命の日」に向かって進んでいきます。

主人公は、否応なしに「運命の日」へと引きずり込まれていった2人の青年。市警組合の母体組織や急進派グループに潜入して動きを探る特殊任務についたものの、困窮にあえぐ警官たちの姿を見て自ら組合のリーダー役を担うようになっていくダニーと、人種差別と失業に苦しんだ末にトラブルに巻き込まれてボストンへ流れ着き、ダニーの実家で下働きをしながら黒人の地位改善協会で働くことになったルーサー。

共産主義者の取り締まりに血道を上げる若き日のエドガー・フーバー(後のCIA長官)や、大暴動を利用して州や連邦の地位を高めようとした州知事のクーリッジ(後の大統領)など、歴史上の人物も数多く登場して物語に彩りを添えますが、やはり、主人公の2人の視点がいいですね。それと、ダニーの恋人であるアイルランド系のノラ。

秀逸なのは、ボストン・レッドソックス時代のベーブ・ルースを2人に交差させていること。この2年間は、ベーブ・ルースが打撃に開眼して、ヤンキースにトレードされるまでの期間と全く重なるのです。列車の故障で下車した田舎町で、退屈しのぎに黒人の草野球に加わったベーブ・ルースが、大リーガーと遜色ない実力を持った、ルーサーら黒人野球選手に対する複雑な感情を描いたプロローグも、トレードされてニューヨークに向かう列車で、暴動後にボストンを出て行くダニーと乗り合わせるエピローグも、独立した短編として成立するくらいに素晴らしい。

労働者の実態と、労働者階級から愛される英雄である野球選手を二重写しにすることで、アメリカにおける両者の関係が実感として伝わってきます。やはり、アメリカは野球の国なんですね。これがヨーロッパや南米なら、サッカー選手が登場するのでしょうか。

2008/11