りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

博物館の裏庭で(ケイト・アトキンソン)

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1952年にイングランド北部ヨークのペットショップ屋に生まれたルビー・レノックス。自分が受胎する瞬間からルビーが語り始める「自分史」は、母親バンティー、父親ジョージ、姉のパトリシアとジリアンとの愛憎の物語なのですが、それだけではありません。

本編の「自分史」の間に挿入される「補注」は、曾祖母アリス、祖母ネル、母親バンティーの3世代に遡る100年間のドラマであって、むしろこちらのほうが長いくらい。そこでは2つの大戦を乗り越えてきた普通の庶民が経験してきた、戦死や、事故死や、病死や、別離や、望まぬ結婚や、浮気や、行方不明が綿々と綴られているのです。

それはもはやひとつの博物館(ペットショップもヨークの博物館の裏にあるのです)。銀のロケットが、ガラスボタンが、1枚の写真が、物語を秘めたまま家族の中で継承されていき、次の世代でまた、新しい物語を生み出していくのです。

ルビーは言うのです。「結局これはあたしの信念なのだけれど、意味のある世界を構築できるのは言葉だけなのだ」と。だからルビーは、品物の中に詰まった思い出を解放していき、物語として残していくのですね。

一族の歴史を全てわかっているかのようなルビーでしたが、そんな彼女に忘れられていた重要な物語がひとつだけありました。それがどういう物語で、どうしてルビーの記憶から欠落したのか、ここが見せ場なのですが、それを書いてしまってはネタバレですね。

レトロさんのレビューに「巻頭の家系図がネタバレなので見ないほうがいい」とありましたが、50人以上の登場人物の相関関係図なしでは、「補注」で語られているのが誰のエピソードなのか全然理解できません。でもどうして家系図がネタバレなのか、その秘密にたどり着くまで全然わかりませんでしたよ。これはいったい誰なんだろう・・と、不思議には思っていたのですが・・。

長い年月(100年? それとも50年?)をかけて、母親バンティとの和解にたどり着く、ルビーたち姉妹の物語は、楽しく読めました。ドラマに仕立てても楽しそうです。

2008/10