りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

トロイメライ(池上永一)

イメージ 1

テンペストのスピンオフ小説ですが、本編が黄昏の琉球王国を舞台とした宮廷小説であるのに対し、こちらは市井の人々の連作人情物語。

新米筑佐事(岡っ引き)の武太を狂言回しにして綴られる那覇の人情物語は、通常の時代小説で慣れ親しんだ江戸や大阪の物語とは一味違います。祖先を崇め、自然とともに生きる「沖縄テイスト」がたっぷりと盛り込まれているんです。『テンペスト』の登場人物が次々と顔見せするのも嬉しいですね。

筑佐事の武太:無職の三線弾きだった武太が筑佐事として雇われたいきさつや、元政府高官の破戒僧である涅槃院の大貫長老や、料理屋「をなり宿」の女将と部分美人3姉妹(鍋、竈、甕)などのレギュラーメンバーが紹介されます。武太の初仕事は、実家を一人で切り盛りしたあげくに困窮に陥って墓を売った女の逮捕劇。さぞ人情裁きが出ると思いきや・・。

黒マンサージ(手巾):ジュリ(娼婦)が殺害された事件の犯人は、清国柵封使の船長でした。治外法権の相手を放免するしかなかったのですが、正義の味方の黒マンサージが現れて・・。評定所筆者の喜舎場朝薫が登場します。

イベガマの祈り:イベガマとは「風の鳴る丘」と言われる聖地のこと。生活のためにやむなく売られた3人の子供が脱走したのですが・・。海人(ウミンチュー)とは奴隷的な待遇で糸満に売られる漁師だったんですね。逞しい女官・大勢頭部(別名・思徳金)が登場します。

盛島開鐘の行方:突如消えてしまった、王家所有の幻の三線の名器の行方は?三線だけが取り得の武太は、謎の人物から見事な三線を差し出されるのですが・・。女踊りを舞わせたら王国一の「花当(はなあたい)」孫嗣勇が登場します。

ナンジャジーファー(銀の簪):名門出身の超美人なのに、超高級ジュリとして男を手玉に取っている魔加那が詐欺で訴えられます。魔加那の妹が真那美!「真那美、泣いちゃう・・」が、姉から教わった必殺技だったとは。^^;

唄の浜:浜の名物オバア、サチが亡くなります。ところが葬られるべき墓がない!なんとかしてやりたいと、武太は奔走するのですが・・。ラストになって、ついに『テンペスト』の主役、孫寧温が登場します。^^

毎回登場する沖縄料理もおいしそうでした。ジーマミー豆腐、アダンの芽のチャンプラー、ラフティ、サーターアンダギー、中身汁、ジューシー(炊き込みご飯)の作り方が丁寧に説明されるんです。この人の本を詠むと、沖縄に行ってみたくなります。

2011/7