りぼんの読書ノート

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湖底の城 1巻(宮城谷昌光)

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「呉越春秋」と副題が付けられた本シリーズで著者は、「臥薪嘗胆」のことわざで有名な呉王・夫差越王・句践の物語を描きたいとの意図があったようです。しかしながら中原から遠い南方の戦いに関する歴史的資料が少ないことに加え、物語の起点が悩ましかったとのことで、物語は伍子胥から始まります。南方の大国・楚の重臣の家系に生まれながら、呉に亡命して呉の興隆を支えた人物です。 

 

まずは位置関係をおさらいしておきましょう。既に大国となっていた楚の領土は現在の湖北省湖南省を中心とした広い地域であり、この時代の首都の郢は現在の荊州市にあたります。同じ湖北省武漢からは西に220kmほど。伍子胥の亡命先となる呉は現在の蘇州周辺。楚とは国境を接していますが、首都の郢から1000kmも離れています。越は杭州湾南部を拠点とする新興国で、首都の会稽は現在の紹興市。上海人と杭州人の仲が悪いと言われるのは、この時代から始まっていたのですね。 

 

さて伍子胥です。春秋五覇の1人である荘王から信頼された伍挙の孫であり、父親の伍奢は現在の主君・平王の太子・健の太傅を務めている直言清廉の人物。兄の伍尚は隣国・呉との国境に近い棠を治めており、いずれ家督を継ぐことが約束されています。 

 

物語は、身長2mを超える大男に育った若い伍子胥が、兄・伍尚を補佐するために棠へと向かう場面から始まります。第1巻ですから登場人物の紹介が長いのですが、後に伍子胥重臣となったり大きく関わってくる人物たちが次々と登場。生涯に渡って伍子胥を支え続ける御佐と右祐。能臣の杞尚。弓の名手・陽可と視力に優れた朱毛。矛戟の達人である徐初と徐伏の兄弟。後に呉王・僚を暗殺することになる鱄設諸。大商人となって伍子胥を助ける才松。情報収集に長けた薬売りの四目。元海賊王の漁師・永翁。楚の平王の佞臣・費無極、後に立場を別つ親友の申包胥、「孫氏の兵法」で名高い孫武らもチラッと顔出し。 

 

今はまだ平穏な伍家の人々の物語は、第2巻から大きく暗転していくことになります。 

 

2020/6