りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

盡忠報国(北方謙三)

イメージ 1

著者が17年の時をかけて書き上げた「大水滸伝シリーズ」全51巻の完結を受けて、「読本」として編纂された本書のタイトルは「盡忠報国」。第3部の主役であった岳飛の旗印です。著者と著名人との対談、編集者からの手紙、漫画「圧縮大水滸伝」などが含まれていますが、最も印象的なのは、著者が登場人物たちと邂逅する掌編集「やつら」でしょう。

著者が出会うのは、(豹子頭)林冲、(花和尚)魯智深、(鉄叫子)楽和、(中箭虎)丁得孫、(轟天雷)凌振、(旱地忽律)朱貴、(石将軍)石勇、(鼓上蚤)時遷、(一丈青)扈三娘、(矮脚虎)王英、(独角竜)鄒潤、(船火児)張横、(飛天大聖)李袞、(出洞蛟)童威、(紫髯伯)皇甫端、(鉄扇子)宋清、(金銭豹子)湯隆、(九尾亀)陶宗旺の18人。主役級から印象に薄い人物まで含まれていますが、著者に一言言いたかったという点では共通していますね。

林冲宋江から受けた馬糞掃除の罰について、魯智深は自身の役割について、丁得孫は死の直前に失った剣の行方を、王英は妻・扈三娘の思いがどこにあるのかを著者に問いただし、時遷は候健への複雑な感情を吐露し、石勇は描かれなかった過去を望み、楽和、朱貴、凌振、皇甫端、湯隆、陶宗旺ら一芸に秀でた者たちはプロとしての思いを語ります。

17年の間に出世し続けて定年を越えてしまったという編集者が、著者に送り続けた手紙も印象に残りました。全シリーズが実質的に「史進伝」であったことや、岳飛が謀殺の危機を脱して伝説と史実を越えてからの自由な展開の難しさや、楊令の遺児・胡土児が歩む道の予想などは、読者も感じていたことですね。原典における呉用の作戦が悪巧みレベルであることや、花飛麟を死なせてしまったことや、李俊を瓊英と再会させなかったことへの不満は、私も感じていました。やはり炳成世(へいせいせい)は平清盛のことでした。

水滸伝」の読本である『替天行道』や、「楊令伝」の読本である『吹毛剣』という本もあるそうです。薄れてきた記憶を蘇らせるためにも、こちらも読んでおきましょうか。

2019/2