りぼんの読書ノート

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替天行道(北方謙三)

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著者が17年の時をかけて書き上げた「大水滸伝シリーズ」全51巻は、「水滸伝(19冊)」、「楊令伝(15冊)」、「岳飛伝(17冊)の三部構成となっています。先日「岳飛伝」の読本として出版された盡忠報国を読みましたが、それぞれのシリーズごとに読本が出版されていたのですね。本書は「水滸伝」完結を記念して出版された読本であり、タイトルはズバリ梁山泊の旗印である「替天行道」。

このシリーズの特徴はなんといっても、英雄豪傑が自然発生的に梁山泊に集う原典を換骨奪胎して、宋王朝に対する革命軍原点として再定義し直したことにあります。その背景には著者自身の全共闘体験や、カストロゲバラらによるキューバ革命への共感があることが、本書の中であらためて触れられています。

世を憂う小役人の宋江の手による檄文を携えてオルグ活動を行っていた魯智深らと、軍資金を集めるために盧俊義らに塩の密売を行わせていた晁蓋らが手を組み、拠点となる梁山泊を手に入れて、さらに同志を募っていくという構成には驚かされました。

しかも林冲には騎馬隊を、史進には遊撃隊を、公孫勝には特殊部隊を率いさせ、禁軍・地方軍出身者である呼延灼、関勝、楊志、秦明、朱仝、雷横らには本隊や拠点を率いさせるなど、数多い登場人物のそれぞれにふさわしい役割を与えて人物造形まで描き切ったことが素晴らしいのです。なかでも原典ではすぐに姿を消す王進に人材養成の役割を与えたことは出色です。さらに敵である童貫を最強の武人として設定したことや、青蓮寺という諜報機関を暗躍させたことは、物語に深みを与えました。

本書に収録された年表や人物事典、編集者からの手紙や、著者から読者へのメッセージなどを読んで、このシリーズを再読してみたくなりました。「大水滸伝3部作」の中では、なんといっても「水滸伝」が一番面白いのです。

2019/3