りぼんの読書ノート

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吹毛剣(北方謙三)

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著者が17年の時をかけて書き上げた「大水滸伝シリーズ」の第2部にあたる「楊令伝(15冊)」の読本として出版されたのが本書です。タイトルは楊志から楊玲に引き継がれた家伝の銘剣の呼び名ですが、これはもともと宋建国期の功臣・楊業によって鍛えられた業物であったとのこと。著者の楊家将にあったエピソードです。

このシリーズでは、主人公であるはずの楊令がなかなか登場しません。梁山泊の生き残りのメンバーが中国全土に散らばって潜伏する中で、燕青と武松が行方不明の楊令を探しに女真の地へ向かう場面が前半のハイライト。金の建国から、遼の滅亡、北宋の滅亡へと至る史実の中で、革命軍であった梁山泊もまた変わっていかなければならないのです。新しい形の国を模索するにふさわしいリーダー像を描くあたりは、著者がもっとも苦心した点なのでしょう。

方臘による江南の宗教蜂起や、貿易国家である西遼の建設もまた、国家のあり方について考えさせてくれます。宋と金に挟まれた梁山泊の戦いは迫力ありますし、新世代が育ってくる様子も読みごたえがあるのですが、このシリーズは全体的に重苦しいですね。いかに時代を先取りした発想を取り入れたところで、万人にとっての理想国家の実現など望むべくもないからなのでしょう。

水滸伝」読本の替天行道にも「岳飛伝」読本の盡忠報国にも、編集者からの手紙が収録されていましたが、本書に関する書簡が一番おもしろいですね。もっとも先を読み難い展開だったせいで、勝手な予測や無謀な提案が多いのです。実際に採用された提案があったのには驚きましたが。

2019/3