りぼんの読書ノート

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楊令伝14(北方謙三)

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ついに、楊令が描いた「替天行道」の形が見えてきます。それは、「民を略奪する国家」を廃して、「民を富ませる国家」を作ることでしたが、具体的には「自由市場」という形で現われてくるんですね。

この思想は、「閉鎖的な経済圏における限定的な市場」を前提に国家が物流を支配する封建国家のあり方に抵触せざるをえません。もともとの仇敵であった南宋のみならず、緩やかな同盟関係にあった金も敵に回す「危険思想」といえるでしょう。

梁山泊のめざす「新しい国のありかた」に危機感を抱いた李富は、建国当初から南宋を支えてきた大将軍の劉光世に加えて、新たに傘下に入れた岳飛や張俊の大軍勢を投入し、国家の存亡をかけた全面戦争を仕掛けてきます。楊令を戦闘に、花飛麟、呼延凌、韓伯竜、秦容ら若い戦力が中心となった梁山泊ですが、遊撃隊を率いる史進は50歳を超えてまだまだ健在です。乱戦の中で劉光世を討つべく狙いを定めるのですが・・。

この巻でも多くの戦士が退場していきます。梁山泊を出奔した李英と、彼を捜索していた姉の李媛。酔って愚痴っていただけではなかった昔気質の戴宗。愚直を極めて名将となった郭盛。阮小二、童猛、張横・・。

最終巻となる次巻では、宿敵同志であった南宋と金が手を結んで、つまり中国全土が牙を剥いて梁山泊に襲い掛かってくることになるはずです。史実の狭間を縫って繰り広げられた『水滸伝19巻』+『楊令伝15巻』の一大叙事詩についに決着がつくのですね。ここまでくると、どんな決着でも受け入れられます。

ところで、このシリーズは現代の中国のあり方についての批判となっているようにも思えるのですが、いかがでしょうか。

2010/12