しかし、少年の恋心は報われるものでなかったことは冒頭から明らかにされています。講堂で行なわれている追悼式は、亡きシュテラを偲ぶためのものだったのですから。悲しみに包まれた空間で、ひとり特別な想いを抱いて立ち尽くすクリスティアンの胸に浮かぶのは、ひと夏の儚い愛の記憶でした・・。
なんとまぁ、古典的な作品なのでしょう。表現も控えめで、2人が愛を交わした場面などは、一読してわからなかったほど。とはいえ、クリスティアンの純粋で未成熟で、想いと現実との間で揺れ動く気持ちは、痛いほどに伝わってきます。
老巨匠がこの時代に、『ウェルテル』を思わせるような純愛小説を書いたということに、意味があるようにも思えます。
2010/12