このシリーズ、江戸を舞台にした「不思議ミステリ」なのか「不思議人情話」なのか、著者の迷いも伝わってくるようにも思えて、一時はかなり中だるみ感があったのですが、前作『ころころろ』あたりからふっきれたようです。神や妖を登場させながら、独特の死生観や世界観が感じられるようになってきました。
「ゆんで(弓手)」とは左側、「めて(馬手)」とは右側のこと。道をどちらに曲がるかで運命が変わってしまうのですから不思議なもの。でも一太郎の場合には、右に曲がったために大変なことが起こってしまいました。
「その日」から4年後。弱ったまま行方不明になってしまった屏風のぞきを探す過程で知り合った「鹿島の事触れ」の権太とともに、血で狂った板絵の付喪神を退治します。
「その日」から2年後。飛鳥山での花見で、狐と狸の化け合戦がはじまったと思ったら、全員が謎の妖に化かされてしまうという事件が起きました。一般人も妖も総出演。^^
「その日」から1年後。大雨の中で記憶を失っていたキップが良くて強いお姉さんの正体と目的は?このお姉さん、犬神の佐吉を「かわいい」なんて言っちゃうんですから相当のもの。
この作品も良かったですよ。時系列を逆にたどるなんて、サラ・ウォーターズの『夜愁』や、ポール・トーディの『ウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン』のようですが、読者が抱くであろう違和感も、じょうずに使われています。
2010/12