『幕末あどれさん』から数えて4作めとなるシリーズの完結編となります。
銀座の裏煉瓦街の隣人で西郷を神とも崇める薩摩出身の市来巡査は、その西郷や故郷の同胞らと戦うために政府軍の一員として出征させられ、元旗本の主筋のお嬢様・佐登と結ばれながらも己の不甲斐なさを恥じて失踪していた能勢は輜重部隊に応募します。さらに土佐民権党の士族・矢田部は、薩摩での戦闘に身を投じるのか、民選議会開設を求める板垣についていくのか悩みますが、これは土佐全体に共通する悩みのよう。
そんな中でも、宗八郎と親しく付き合っている元大垣藩主のご落胤・戸田三郎四郎や、耶蘇教書肆「十字屋」を営む元八丁堀与力・原胤昭は冷静です。もはや、戊辰戦争のような蛮行から何かを生み出せる時代ではなく、言論で国のかじ取りをする時代へと変わっていく時期であるとの、彼らの思いは揺らぎません。
主人公の久保田宗八郎は、ひとり修羅の道を歩んでいるかのようです。かつて上野戦争の際に刃を交えた仇敵であり、今は政府の権力者となっている残虐な石谷蕃隆を倒すことだけが、彼が思い描くことのできる未来の全てなんですね。このシリーズは、維新の到来とともに修羅道に堕ちた宗八郎が、修羅道を脱するまでの物語なのでしょう。
では、彼を救い出したものは何だったのか。それは、皮肉な運命の巡りあわせなどではなく、命を賭けた女の想いです。ささやかな希望を感じさせる、「いつかはきっと海を渡れそうな気がした」との結びは、この物語にいかにもふさわしいように思えます。
2010/12