りぼんの読書ノート

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血涙-新楊家将(北方謙三)

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宋建国の英雄・楊業の死で楊家将が終わってから2年。生き残った息子たちが再建した楊家軍がふたたび、宋と遼の間の政治に巻き込まれ、両国間で結ばれた「澶淵の盟」の礎となって、亡んでいくまでの物語。

「続編」というよりも「新展開」といえる内容であり、『水滸伝』で青面獣・楊志に、そして楊令に受け継がれる「吹毛剣」の縁起物語としての側面も合わせ持っています。

楊家軍を再興させたのは六郎と七郎ですが、文官による中央集権を徹底させて地方の軍閥を解体させていく中で、かつてのような独立性を保つことはもはやありえません。それを象徴するのが、六郎の息子の1人を、妹の八娘が学者の夫と開いた大学寮に入門させる決断でしょう。もう1人の妹・九妹は、楊家の一群を率いるのですが・・。

一方、遼の「白き狼」耶律休哥との戦いに破れ、瀕死の重傷を負って遼に連れ去られた四郎は、記憶を失ったまま耶律休哥の後継者として頭角を現わし、蕭太后の娘を娶って新たな人生を歩み始めました。やがて過去を思い出して運命を呪い、苦悩する四郎に、遼将・石幻果として生きると決意させたのは、今は父とも慕う耶律休哥の厳しい愛情。

そして宋と遼との決戦の日、楊家の息子たちは両国家の最強軍を率いて対峙します。乱世に終止符を打つために運命に弄ばれた男たちの哀しみが、「血涙」となって流れる結末に向かう最終章は壮絶そのもの。

ところで楊家の息子たちは、水滸伝楊令伝に登場する武将たちの原型ですね。遅咲きの六郎は呼延陵、天才肌の七郎は花飛麟、四郎は悩める楊令とでもいうところでしょうか。五郎の生き様は武松を思わせますし、九妹はもちろん扈三娘。

宋建国期の『楊家将』・『血涙』を読むことによって、宋末期の『水滸伝』・『楊令伝』の理解が深まりました。歴史も人物も、流れは続いている!

2011/4