りぼんの読書ノート

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モルフェウスの領域(海堂尊)

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ナイチンゲールの沈黙で、右眼球摘出手術を受けた少年・佐々木アツシは、残された左眼にも同じ網膜芽腫(レティノ)を発症し、特効薬の認可を待って5年間の人工凍眠に入ります。

もちろん現在の医療技術で人工凍眠などは不可能です。その意味ではSF的な設定なのですが、著者は医療倫理の問題を提起するために本書を書いたのでしょう。

少年の生命維持を担当する非常勤職員の日比野涼子が主人公。ゲーム理論の権威・曾根崎伸一郎教授(ジーン・ワルツ』)の曾根崎理恵の夫)が提唱した「凍眠八則」を基盤とした「人体特殊凍眠法」の欠点に気づいた涼子は、少年を守るための戦いを始めるのですが・・。

ひとつめの問題は、被験者の人権。とりわけ被験者が子どもであった場合の人権をどう保護するのかということ。もうひとつの問題は「人体特殊凍眠法」は官僚たちによって骨抜きにされてしまったということ。このままではアツシ君が最初で最後の人工凍眠体験者になってしまいかねません。物語は思いもよらない方向に進展していきます。

モルフェウス」とは、ギリシャ神話に登場する「眠りの神」ですね。著者は、医学のたまごに再登場した佐々木アツシ君の年齢設定に、前作と矛盾があると指摘されて本書を執筆されたそうですが、「人権」の問題も、「睡眠学習」も、よく練れていなかった印象です。あまり戦線を広げすぎないほうが良いのでは?

本書の中では「東城大救急医療センター」は既に閉鎖され、併設の「小児センター」は医師を持たない看護施設となっているとの設定ですが、緊急医療と小児科医療の問題を今後さらに展開していくステップなのでしょうか。父親の勤務の関係で中学生のころアフリカの某国にいた涼子が、大使館で出会った酔いどれ医務官というのは、たぶん「あの人」ですよね。

2011/4