りぼんの読書ノート

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水滸伝1(北方謙三)

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今年の春に「北方水滸伝読本」の『替天行道』を読み、この壮大な再構成シリーズを読み返してみたくなりました。とりあえず旅先に第1巻から第5巻まで持参。記憶では、ここまでがひとつの区切りになっていましたので。 

 

冒頭に魯智深が登場する場面が、まず印象的です。地方役人にすぎない宋江が、腐敗した世を正そうとの想いを綴った檄文に心を揺さぶられた花和尚が、同志を募って全国を行脚している場面。すでに放浪者の武松、禁軍の林冲、地方軍の花栄、雷横、戴宗らは同志に加わっています。 

 

一方で地方の村名主である晁蓋は私塾教師の呉用らと世直しのための兵を養うとともに、盧俊義や柴進らに闇塩の道を作らせていました。つまり後の梁山泊の三巨頭である宋江晁蓋、盧俊義に、それぞれ革命思想家、革命軍指導者、革命財源主導者としての役割を、はっきりと担わせた訳です。宋江カストロを、晁蓋ゲバラをモチーフとしていることは、著者自身が語っていました。 

 

もちろん、他の主要な登場人物たちも新たな役割を与えられていきます。禁軍武術師範の王進は母親とともに革命者たちの心の故郷とでもいうべき役割を担い、彼に教えられた史進は革命軍の中心的人物へと育っていく訳です。かなり先走りますが、『水滸伝』・『楊令伝』・『岳飛伝』の三部作を通しての事実上の主役を担うのは史進であり、彼こそが著者の分身に最も近い存在なのでしょう。 

 

第1巻は、獄に落ちた林冲が医者の安道全や盗人の白勝とともに救い出されるまでの物語。林冲を疑った禁軍監察官の李富の正体は後に明らかになりますが、彼に代表される宋政府側もまた再構築されているのがこのシリーズの魅力のひとつです。敵が大きくなければ盛り上がりませんからね。 

 

2019/10再読