りぼんの読書ノート

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アンのゆりかご(村岡恵理)

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戦前から戦後にかけての翻訳家・村岡花子の生涯を、孫娘である著者が綴った作品は、朝ドラ「花子とアン」の原作にもなりました。本書を読むと、彼女の原点が明治期のミッションスクールにあったことがよく理解できます。 

 

日清戦争の前年に生まれた少女が、10歳にして東洋英和女学院に入学した時は、日露戦争の前夜でした。戦争へと向かう不穏な時代に、将来への希望、自由への憧れ、社会福祉への意識の高さ、女性や子供の生活向上への献身的な姿勢を身に着けることができたのは、カナダ人の女性宣教師たちの教育の賜物だったのでしょう。その背景には植民地主義の匂いも感じられるのですが、彼女の場合にはそれがいい方向に作用ようです。 

 

晩年にただ一度アメリカ旅行を経験しただけの村岡花子が、英語を自在に使いこなしたのみならず、カナダの事物や習慣をよく理解していたことには、このような背景があったのですね。学友だった柳原白蓮との生涯に渡る友情や、夫・敬三との深い夫婦愛は、まるで少女小説の中の出来事のようですが、ミッションスクールによる人格形成をベースに置いてみると、頷けるものがあります。 

 

「曲がり角のさきにあるものは、きっといちばんよいものにちがいない」というアンの有名な言葉もまた、「最上ののものは将来にある」との教えと結びついているのでしょう。村岡花子の生涯こそが、いい意味でミッションスクールの最高傑作であるように思えます。もちろんそれは、彼女独自の色で美しく染め上げられているのです。 

 

2019/10