りぼんの読書ノート

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雷にうたれて死んだ人を生き返らせるには(ゲイル・アンダーソン=ダーガッツ)

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カナダ西部にある農場で暮らす15歳の少女の1年間の物語。といっても『赤毛のアン』や『大草原の小さな家』とはかなり趣が異なります。時代が第二次大戦下であることが理由ではありません。僻地の貧しい農場では自給自足が原則だし、隣人も少なく、最寄りの町も1軒しか商店がないなどの環境は、20世紀初頭のカナダ東部の島や開拓時代のアメリカ西部とあまり変わらないようです。最も異なっている点は、主人公のベスを取り巻く環境が陰湿で、周囲に理解者もいないことなのです。

 

父親は前の戦争で頭部に負傷した影響なのか、衝動的で戦闘的であり、隣人のスウェーデン人一家と土地の境をめぐるいざこざを起こしてばかり。ついには隣家の納屋に放火しようとして逮捕されてしまいます。母親は常識的で頼りになる人物なのですが、夫には従順で思春期の娘の心情を理解してくれません。兄は農場を飛び出して軍に入ることしか考えていないし、母親の友人である先住民一家のバーサ婆さんは迷信に凝り固まっています。それに加えて、彼女は学校で陰湿なイジメにあってしまいました。唯一の友人はバーサ婆さんの混血の孫娘ノラなのですが、彼女はベスに一緒に家出しようとけしかけます。そしてベスは、人々を狂気に追い込む魔力を持つとされるコヨーテの霊に追いかけられているのでした。

 

それでも大自然は豊かです。嵐の後であたり一面に降り注ぐ青い亜麻の花びらや、春には道路を埋め尽くす赤いニシキガメの大群や、白一色の大雪原に流れる羊の鮮血など、彼女の周囲には色彩に溢れた光景が広がっています。そしてベスはついに、コヨ-テの霊に操られて彼女に嫌らしいことを仕掛けてくる男に立ち向かう勇気を得るに至ります。

 

タイトルは、母の手書きのレシピブックにあった、落雷で死んだ人を蘇生させる方法のこと。もちろん役に立つわけもない怪しげなレシピなのですが、ベスが以前に片腕に雷が落ちて少々不自由にしていることと関係があるのかもしれません。とてつもなく厳しい環境下にあっても淡々と出来事を語っていくベスが、最終的には精神的な自立を得る物語の読後感は予想外に爽やかでした。

 

2021/8