りぼんの読書ノート

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本を読むひと(アリス・フェルネ)

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パリ郊外に暮らすジプシーの大家族と、図書館員エステールの交流を描いた作品です。「20年におよぶフランスのロングセラー」とのことなので、現在のジプシーたちの生活環境は変化しているのかもしれませんが、本質は変わっていないのではないかと思われます。

フランスに数百年も住みつきながら、フランス国民とはなりきっていないジプシーですが、この時代はすでに「流浪の民」ではなく定住生活をしています。しかしその実態は、土地所有者の好意だけが頼りの不法滞在にすぎず、仕事も生活保障もありません。男たちは盗みを働き、女たちは愛されながらも虐げられ、子供たちは学校にも行っていないのです。

女家長のアンジェリーヌ婆さんを筆頭に、息子5人、嫁4人、孫8人という、キャンピングカーに暮らす大家族のもとにやってきたエステールは、子供たちに本を読み聞かせます。彼女を動かしているのは「人生には本が必要だ」という信念にほかなりません。ジプシーから見ると「厄介事を押し付ける他所者」にすぎないのですが、彼らも次第に変化していきます。

本と文字に接した子供たちは自分で考えることを学びはじめ、嫁たちは違う生き方があることを知り、ダメ男たちの中からも文盲ではいけないと思う者も現れます。そしてエステールの誠意を認めたアンジェリーヌ婆さんは、彼女を受け入れるのです。

本書は単純なハッピーエンドにはなりません。嫁に逃げられた男は精神を病み、学校に行き始めた子供はイジメにあい、アンジェリーヌ婆さんが病に倒れたことで大家族は解体に向かいます。それでも本と文字に対する子供たちの欲求が、消えることはないと信じられるのが救いです。そして、本書の現題の直訳が「恩寵と貧困」であることが思い出されるのです。

主人公であるはずのエステールが、40代の既婚者としか説明されず、実生活についてはいっさい触れられていないことも、何かを象徴しているようにも思えます。

2017/6