りぼんの読書ノート

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ショコラ(ジョアン・ハリス)

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謎めいた女性ヴィアンヌと彼女の小さな娘アヌークが、フランスの田舎の村に流れ着き教会の近くにチョコレート店を開いてから、村が変わり始めます。

ヴィアンヌの薦めるチョコレートは、なぜかそれぞれの人の好みにピタッと合い、固く閉ざされていた村人たちの気持ちを解きほぐしていくのです。夫に虐待を受けていた女性は誇りを取り戻し、死に行く老犬を悼み嘆く老人は、生きる望みを取り戻し、孤独な祖母は孫と触れあいを取り戻します。もちろん、子供たちはチョコレートが大好き。^^

その一方で、彼女たちを苦々しく思う人たちも現れるのです。その代表は、村人たちに清貧と禁欲を説くレノー神父。流れ者のジプシーの一団が村に留まろうとしたときに、その緊張は頂点に達します。

ヴィアンヌは決して、明るいだけの女性ではありません。タロットに顕れる不吉なイメージから逃げ続け、ニューヨークで事故死した母親を持つヴィアンヌもまた、「黒い男」の影におびえる夜もあるのです。レノー神父の心もまた、揺れ動いています。密かにヴィアンヌのチョコに惹かれていることを認められず、少年の頃に犯してしまったある事を、神の御業と思えなくなって罪の意識にさいなまれることもあるのです。

ヴィアンヌとレノー神父のモノローグが交互に綴られていく展開は、まるでカラフルなチョコレート店と黒い法衣のように対象的で、視覚に訴えてきます。生命の喜びを象徴するかのようなカラフルさが、最終的には黒い世界を取り込みますが、黒もまた必要な色なんですね。単純な善悪二元論の物語ではありませんでした。ほろ苦くも甘い、ショコラそのもののような物語です。

2008/1