りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

関越えの夜(澤田瞳子)

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奈良天平期を舞台にした作品群でデビューした著者ですが、江戸時代の作品も増えているのは読者層が厚いからなのでしょう。本書は、東海道を行きかう人々の悲喜こもごもの想いを描いた、連作小説集です。この著者は、何を書かせても上手ですね。

「忠助の銭」保土ヶ谷
贔屓客から受領してきた40両もの大金を失った呉服屋の手代は、強盗を働くか、死ぬかとまで思い詰めていたのです。彼に再び生きる希望を与えたのは、皮肉にも心中への道行途中と見えた女性でした。

「通夜の支度」保土ヶ谷
旗本大名から側女奉公を命じられた商家のお嬢様が、忠義者の手代を連れて家出。捜索に出て心中死した2人を見つけた女中は、自分と心を通じていたはずの手代を道連れにした、お嬢様を憎みます。

「やらずの雪」小田原
怒りを顕にした女人とすれ違った男は、宿泊した寺の僧侶から、穏やかな生活が破壊されたいきさつを聞かされます。きっかけは、弟と不義をした妻と身分を捨て出家していた年長の僧侶を、逆恨みする元妻が訪ねてきたことでした。陰口を耐えかねた弟が、同僚を殺害して出奔したというのです。

「関越えの夜」箱根
同僚に殺害された父の敵討ちに出た侍は、関所を超えることを躊躇い続けていました。しかし関所破りの男女を見つけた礼として、夜間の関所越えを許されてしまうのです。それは苦難の一歩でしかないのですが。

「死神の松」田子の浦
放蕩な女の浮気相手を殺害した男が、女とともに江戸から逃亡。しかし関所破りの際に女は捕えられてしまい、ひとり残された男は、これまで殺めてきた者たちの亡霊に誘われるように松の木に向かっていきます。

「恵比寿のくれた嫁御寮」駿河
松の木で首を吊った男の遺体を始末した漁師たちの網元は、性悪の女郎に引っかかっていた息子の嫁に、浜で出会った清楚な女性を選びます。しかしその女性の姉が性悪の女郎と知った網元は、怒りのあまりに野良犬を強く蹴ってしまいます。

「なるみ屋の客」府中
大怪我をして流産した野良犬が迷い込んだ居酒屋で、だらしなく酔い潰れた男は、火事で零落した大店の主人でした。捨て子を養女として育てたことが火事の原因になったと聞いて、愕然とした浪人者の夫婦は、捨て子の両親なのでしょうか。

「池田村川留噺」天竜
府中の居酒屋にいた大工は、天竜川で10日も川止めにあってしまいます。先を急ぐ男のために、泳いで川を渡ってやろうとするのですが、その男はその隙をみて金目のものを奪おうとした護摩の灰でした。

「痛むか、与茂吉」岡崎
川止めの際に同宿していた手代は、若年増の女将と関係を持って離縁の原因を作るよう、旦那から命じられていました。大奥のご中臈様ご宿泊とのことで女将と相部屋にされた機会に、事に及ぼうとするのですが、女将のほうが一枚上手でしたね。手代は自分が仕えるべき先は旦那ではなく、商家であることを知るのです。

「竹柱の先」宮宿
江戸屋敷の腰元として奉公に出たまま6年前に消息を絶った妻は、ひょっとして大奥の中臈になっているのではないかと妄想する夫。目を病んだ父の代わりに竹柱の先に揺れる宿札を読んだ息子は、偽りの名前を伝えるのです。

「二寸の傷」美濃
姉が嫁いだ男は、江戸屋敷の腰元に手を付けて失脚。夫と共に浪人生活を覚悟した姉は、夫の弟と夫婦になって武家を継ぐよう妹に頼みます。姉の結婚式の日に狼藉を働いた男から、顔に刀傷をつけられて出家していた妹は、以前から義兄の弟を慕っていたのです。

「床の椿」京都
父が側女に産ませていた幼い義弟を追い返して、炭屋の大店を継いでいた若い娘の心を変えたのは、同情心が仇になった事件でした、炭をあげた子供が失火を出して、母子とも焼死したというのです。

2018/3