りぼんの読書ノート

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地下の鳩(西加奈子)

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帯に「平成版夫婦善哉」とあるように、大阪ミナミの夜に生きる破滅的な男女の物語です。実は、少々苦手なジャンルの作品でした。

ミナミのキャバレーで客引きとして働く、暗い目をした「吉田」は40歳。若いころから女にはもててきたけれど、人生をともにするほどの責任を持てはしない。彼が惹かれるのは高級感を漂わせる女性なのですが、そういう女性たちには近づかないように生きています。すでに、堕ちてしまった男のようです。

ミナミのバーでチーママをしているのに、素人くさい「みさを」は29歳。若くて美しく人気もあるのに、「健やかな関係」よりも「人に言えない薄い闇のような関係」のほうに居心地の良さを感じる傾向を、自分でも意識しています。堕ちたい願望を持った女なのかもしれません。

そんな2人が出会って何をするかというと、吉田は飲むばかりですが、みさをは食べまくるのです。ミナミ近辺の美味しそうな食い物が多く登場するし、最後は香港にまでいって中華を食べまくるのですが、『夫婦善哉』と異なるのは、全然おいしそうに思えない点。

互いに仕事をしなくなり、2人のささやかな蓄えはみさをの食事に全て消えてしまい、別れの予感が漂うのですが、そうはならなそうなところで物語は唐突に終わります。少し太ったみさをは、すでに吉田の理想の女性からは隔たってしまっているのですが、2人の関係は『夫婦善哉』のようにこれからも長く続くのかもしれません。

タイトルの「地下の鳩」とは、地下鉄御堂筋線の心斎橋駅の構内で餌をあさる鳩のこと。その鳩たちは地上に出ることがあるのかと、余計な心配をしていた吉田ですが、そんなことはありませんね。ラストでみさをに糞をかけて飛び去る鳩は、地下にいた鳩なのでしょう、何かを象徴しているのでしょうか。

表題作に脇役として登場する「おかまのミミィ」の、学生時代のイジメに遡るトラウマを描いた「タイムカプセル」が、並録されています。

2017/6