りぼんの読書ノート

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遠い部屋、遠い奇跡(ダニヤール・ムイーヌッディーン)

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パキスタン人の父親とアメリカ人の母親の間に生まれ、両国を行き来しながら育った著者による、連作短編集です。一瞬で瓦解するささやかな幸福や、西洋にかぶれた新しい世代の憂鬱などを描いた作品群から浮かび上がってくるのは、1970年代から2000年代にかけての時代の変化のようです。

「電気技師ナワーブッディーン」
時代は1980年代。K.K.ハールーニーパンジャーブ州に所有する農場で、機械類の整備を一手に引き受けている技師は、バイクも手に入れて順風満帆。彼を襲おうとして逆に大怪我を負った盗賊に対して、彼がとった態度とは?

「サリーマー」
1980年代のラホール。K.Kの屋敷に勤め始めた若い女性サリーマーは、生きるために老執事ラフィークに接近して愛人となります。しかし、K.Kの死後、屋敷が売られて使用人がバラバラになると、彼女の運命は暗転していくのです。

「養え、養え」
1970年代からK.Kの農場管理人を務めるチョードリーは、上前をはねて地元の権力者にのしあがりました。運転手の妹ゼーナビーを愛人とし、議員になり、一族にも繁栄をもたらすのですが、それも彼が死ぬまでのことでした。

「燃える少女をめぐって」
K.Kの甥の使用人一家にかかわる事件の調停を依頼された、ラホールの高等裁判所の判事は、有能な調査人を使って恐ろしい真相を突き止めます。でも、真相と正義は別のもの。地主と使用人、司法と警察の関係は昔ながらなのです。

「遠い部屋、遠い奇跡」
老いたK.Kに近づいて愛人となった、没落した名家の娘フスナーは、憧れだった人生に手が届きそうになるのですが、K.Kの死後、娘たちに追い出されてしまいます。長女カーミラーはニューヨーク、次女リアーナーはパリ、末娘サルワトはカラーチーと、誰も父親とは同居していなかったのですが。

「パリの我らが貴婦人」
21世紀のパリ。ハールーニー一族の若者スヘールと、アメリカ人女性ヘレンとの恋愛は進展するのでしょうか。パキスタンアメリカの間で、ヘレンの心は揺れ動きます。

「リリー」
プリンストン大学を出た農場主の跡継ぎムラードと結婚した、イスラマーバードの裕福な女性リリーが幻視したのは、救いのない未来図でした。神秘的で不気味な短編です。アメリカ人の妻をもらったというスヘールは、2人の共通の友人として話題に出ます。

「甘やかされた男」
スヘールの屋敷でアメリカ人の妻に雇われて働き始めた老人ラッザークは、はじめて固定給を得る生活を経験し、人生の春を謳歌しはじめます。若くて頭の弱い妻を娶るのですが、妻は失踪し、訴えた警察からはかえって疑われてしまいます。

2015/4