りぼんの読書ノート

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ヘミングウェイの妻(ポーラ・マクレイン)

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原題は『パリの妻』。生涯4人の妻をもった作家ヘミングウェイと最初の妻ハドリーのパリでの日々を、遺作となった『移動祝祭日』に基づきつつも、妻の視点から再構築したノンフィクション小説です。

心身ともに傷を負って第1次大戦から帰国した21歳のヘミングウェイは、野心と傲慢さと情熱に溢れているものの、将来への自信も定職もない無名の青年にすぎません。そんな青年が発散する激しい魅力に巻き込まれて結婚した8歳年上のハドリーは、移り住んだパリで夫を支え続けます。やがて『われらの時代』の出版にこぎつけ、『日はまた昇る』を書き上げて成功の階段を登り始めたヘミングウェイの前に、才気に溢れた新時代の女性・ポーリーンが登場します。妻に残されたものは幼い息子だけでした。

こう概括してしまうと「捨てられた糟糠の妻」の物語にすぎませんが、聡明な妻は夫の欠点も魅力もわかっています。彼女から見た若きヘミングウェイは後年のイメージとは異なり、才能に恵まれながらも内心に不安を抱え、それでいて虚勢を張らずには生きられない弱い男にすぎません。貧しくとも愛に溢れた日々が将来の葛藤と裏切りを内包していることは、予感されていたのでしょう。

「豪奢で汚い」戦後のパリの様子も、パリに集った現代アメリカ文学における重要人物たち、シャーウッド・アンダーソン、フィッツジェラルド夫妻、エズラ・パウンドガートルード・スタインらとの交流も、妻の視点から描き直されます。それはまるで、当時のヘミングウェイに見えていなかったものを、いちいち指摘しているかのよう。

そして晩年の1つのエピソードによって、本書の趣旨が明かされます。それは、「彼を最も愛したのは自分であり、自分を捨てた男は生涯に渡って後悔し続けたに違いない」という強烈な自負心にほかありません。女性は怖い・・。『移動祝祭日』が未読であったことに気づきました。本書と比較しながら読んでみましょう。

2013/12