りぼんの読書ノート

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善き女の愛(アリス・マンロー)

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ノーベル賞作家マンローは、2012年のディア・ライフをもって執筆生活からの引退を表明していますが、未邦訳だった作品もまだまだあるのです。本書は1998年出版の短編集。2001年に出版されたイラクサの直前の作品にあたります。

「善き女の愛」
オールドミスの準看護婦イーニドが担当している女性クィンは、かつて淡い思いを寄せた元同級生ルパートの妻。死につつあるクィンが漏らしたルパートの罪が、イーニドにある行動を起こさせるのですが・・。冒頭の展示物の由来と、少年たちの遺体発見の顛末が、本編と見事に交差していく、「何一つ無駄なものはない」完成度の高い作品です。

ジャカルタ
2組の若い夫婦が、希望を抱いて人生を歩み出していく・・と思ったら、時代は一気に下って、どちらの夫婦もすぐに破局していたと知らされます。妻に捨てられた男は、夫をジャカルタで亡くした女と再会し、夫は本当に死亡したのかと疑問を呈するのですが・・。

「コルテス島」
若い夫婦が借りた部屋の持ち主であるゴーリー夫妻には、恐るべき秘密があったようです。病気で身体を動かせないミスター・ゴーリーが、若い花嫁に読ませた昔の新聞記事は、ミセス・ゴーリーが起こした事件なのでしょうか。

「セイヴ・ザ・リーパー」
祖母を訪ねてきた孫たちを乗せたドライブは、危険な場所に行きついたのでしょうか。それとも、孫たちのゲームに囚われた祖母が抱いた妄想にすぎないのでしょうか。どちらにしても、祖母は「滑稽な孤独感」を抱かざるを得ません。

「子供たちは渡さない」
子供を失う痛みを抱えていく苦しみを思いながら、突然の駆け落ちを決めた母。いずれ子供は大きくなったら、何らかの形で母親とは縁を切ってしまうものには違いないのですけれど。

「腐るほど金持ち」
少女カリンをめぐる、ママ母と、実母ローズマリーと、実母の愛人の妻アンの関係って、複雑です。結局カリンは、そんな関係を受け入れられなかったのでしょう。ふと思いついた意地悪な企みが、恐ろしい結末に結びついてしまいます。

「変化が起こるまえ」
堕胎が違法であった時代のこと。密かに中絶手術を行っていた父は誰かに強請られていたようです。それは、街の皆が受け入れていた公然の秘密だったのですが。

「母の夢」
なんと語り手は新生児の赤ちゃんです。生まれ出ると母親ジルを拒み、未婚の伯母イオナにだけなついていた赤ちゃんは、ジルと2人で家に残された夜、ジルを罰するために恐ろしい行為に出るのです。

圧倒的な完成度を誇っているのは表題作ですが、若くして作家を目指した著者の自伝的要素が盛り込まれているような「ジャカルタ」と「コルテス島」を興味深く読みました。

2015/4