りぼんの読書ノート

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悪い娘の悪戯(マリオ・バルガス=リョサ)

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ペルーの上流階級に育った少年リカルドは、チリからやってきたリリーという少女と出会って恋に落ちますが、実は彼女はペルーの貧民地区の出身で、名前すら偽名だとバレた途端に姿を消してしまいます。しかしそれは、40年に及ぶ壮絶な愛の物語の始まりでした。

1960年代。ユネスコの通訳となって念願のパリ暮らしを始めたリカルドの前に左翼ゲリラ兵士となって現れた彼女は、愛を捧げるリカルドを退けてキューバに渡り軍事高官との噂を振りまいた後に、フランス人外交官の妻となって再登場。一方で左翼革命に失敗した友人は戦死。ペルーは軍事政権への道を歩み始めます。

1970年代。ヒッピー文化が花開いたロンドンで再会した彼女は、大富豪の夫人となっていました。リカルドは彼女と不倫関係を持ちますが、大富豪との離婚訴訟に失敗して追い出された彼女はリカルドのもとに留まることなく、行方をくらましてしまいます。一方で2人の再会に一役買ったヒッピー画家はエイズで死亡。

1980年代。彼女はバブルの東京で邪悪な男の愛人となり、身も心も捧げていました。再会を果たしたリカルドは彼女と愛を交わしたものの、それも彼女を貶めることに楽しみを見い出す邪悪な男の差し金と知って愕然とします。一方で心から愛した日本人女性に手痛く振られた通訳の友人は、東京で自殺。

1990年代。パリに逃げ帰ってきた彼女は心身ともに病んでいました。全財産をつぎ込んで彼女を回復させたリカルドは、ついに彼女と結婚を果たしますが、それも長くは続きませんでした。病気の叔父を見舞いにペルーに戻ったリカルドは、彼女の父親とおぼしき不思議な老人と出会いますが、彼女はまたも去っていきます。

そしてフランコ政権末期のマドリッドで、リカルドは彼女と最後の再会を果たします。ここに至って、ノーベル賞作家バルガス=リョサの描くS女とM男の倒錯的な恋愛は、時代と世界を股にかけた壮大な純愛物と変貌するのですが、天性の嘘つきで背徳者で純情な男を翻弄し続けたニーニャ・マラ(悪い娘)の本心はどこにあったのか・・。

ここまでくると、この2人が「聖性」すら帯びているように思えてきます。ガルシア=マルケスコレラの時代の愛と並ぶ、壮大な愛の物語です。

2012/5